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■ 無線アドホックネットワークの設計・ルーティング
1.無線アドホックネットワークとは?
無線アドホックネットワークはルータの ような集中制御の機構を必要とせず、各端末はネットワーク全体の情報が把握 できない状況で自律的に通信経路を形成します。各端末同士は直接通信すること が可能で、無線通信の範囲外にある端末同士は、他の通信可能な端末を中継するこ とで通信を行います。
無線アドホックネットワークは通信線、固定の無線基地局を必要としないため 、無線端末があればその場で、経済性に優れた様々な形態の ネットワークを構築することができます。このような特長から、 無線アドホックネットワークは幅広い分野での応用が考えられています。
2.無線アドホックネットワークの応用例
・ユビキタスネットワーク社会の実現
ユビキタスネットワーク社会とは、人にネットワークへの接続やコンピュータ を使うことを意識させずに、状況に応じたサービスを提供することができるような ネットワーク社会を言います。この実現には、社会のいたる所にコンピュータ資 源が存在し、それらがネットワークを通じて互いに連携してサービスを提供する必要 があります。無線アドホックネットワークは、それを可能にする技術として期待さ れています。
・災害時・戦場での利用
地震等の災害時には、ネットワークのインフラ設備が破壊され、通信が不可能に なることが考えられます。このような時に無線アドホックネットワークを利用するこ とで、災害現場でネットワークを構築し、負傷者、または被害状況等の情報を共有する ことが可能になります。
また、戦場において兵士が情報を共有するための手段として、 無線アドホックネットワークの利用が考えられています。
・環境モニタリング
例えば、ある地域の気温の変化を観測したいとします。この地域に温度センサを 装備した無線端末を分散して配置し、各端末が自律的にネットワークを形成して 情報を共有することで、地域全域の気温を計測し、同時に情報の解析を行うことが可能 になります。これはセンサネットワークと呼ばれ、様々な環境の観測に利用される ことが期待されています。
3.無線アドホックネットワークの課題
・電力効率の高いネットワークのトポロジ制御アルゴリズムの設計
無線アドホックネットワーク(特にセンサネットワーク)では、各端末は内蔵の バッテリで駆動することが多く、その動作による消費電力を抑えることが重要で す。無線端末はその無線範囲内に存在するすべての端末と通信が可能なため、トポロ ジ制御を行わなければ、ネットワークが複雑になり消費電力が増加します。このため、 電力効率の高いネットワークのトポロジ制御アルゴリズムの設計が必要になります。
・ルーチングプロトコルの設計
ルーチングとはメッセージの送信端末から受信端末までの通信経路を決定する ことです。無線アドホックネットワークでは、各端末が移動したり、通信ができ ない状態になって、通信経路が突然途切れることが考えられます。そのような動的な 変化に対応するルーチングプロトコルの設計が必要になります。現在、IETFの MANET WGでは様々なルーチングプロトコルが提案され ています。
・電力効率の高いブロードキャストアルゴリズムの設計
ブロードキャストとは、ある端末からその他の全ての端末へデータを送信する通 信のことです。無線アドホックネットワークにおいてブロードキャストは、通信 可能な端末を発見するために頻繁に行われます。このため電力効率の高いブロー ドキャストアルゴリズムの設計が必要になります。
4.研究内容
私達の研究室では現在、無線アドホックネットワークにおけるブロードキャストに注目して研究を行っています。現在知られている最良のブロードキャストアルゴリズムよ りも性能の良いアルゴリズムを設計することを目標としています。
また、アルゴリズムをコンピュータプログラムで実装し、その挙動を視覚的に観 察することなども行っています。図はトポロジ制御の例を示しています。左図は トポロジ制御を行う前、右図はトポロジ制御を行った後のネットワークを示して います。トポロジ制御によって、元のネットワークの接続性を保ちつつネットワー クが単純化されていることが分かります(クリックで拡大します)。

